はじめに
日本では熊(ヒグマ・ツキノワグマ)への遭遇が増え、熊撃退スプレー(ベアスプレー)への関心も高まっています。しかし、日本国内ではベアスプレーの公的な性能規格や認証制度が未整備で、製品の性能表示も業者に任されているという現状があります。
一方、北米(米国・カナダ)では射程・噴射時間・内容量・有効成分濃度・用途表示などが明確にガイドライン化され、性能の足りない製品は「ベアスプレー」として販売できません。
また、対人用の催涙スプレーは、成分や噴射方法が異なるため、熊スプレーとしての利用は不可です。
この記事では、北米の公式ガイドラインをわかりやすく紹介し、日本で購入・使用する際のチェックポイントをまとめます。
1. 北米(米国・カナダ)のベアスプレー基準の要点
- 用途表示と認可:米国では環境保護庁(EPA)の登録製品。ラベルに「Bear Spray / Bear Deterrent」用途とEPA登録番号が表示。
- 射程:最低 約7.6m以上。市販主力は約9〜12m。
- 噴射時間:6秒以上(連続噴射を想定)。
- 内容量:225g以上(NET重量)。
- 有効成分濃度:Capsaicin and related capsaicinoids(総カプサイシノイド:CRC)1〜2%。※多くの市販品は最大値の約2%。
- 噴霧パターン:広がる霧(フォグ)状で、熊の顔面に雲を作る設計。
※カナダでも「動物用としての表示」「容量上限(容器500mL以下)」といった要件があり、熊用であることの明記が必要です。濃度表記は「カプサイシン単体」または「総カプサイシノイド(CRC)」のどちらで表示するかが国・資料で異なるため、CRCで1〜2%を一つの目安にすると混乱が少なくなります。

2. 日本の現状と注意点(なぜ“見かけの熊スプレー”が危ないのか)
日本ではベアスプレーの公的基準が未整備のため、射程が短い/噴射時間が短い/内容量が少ない/濃度表記が不明確といった製品が「熊対策用」として流通してしまう場合があります。
特に小型(手のひら)サイズは、そもそも物理的に射程・噴射量・持続時間が不足しがちで、大型のクマには届きにくい・効きにくいという致命的な問題があります。
また、対人用催涙スプレー(護身用)と熊用ベアスプレーは開発思想と仕様が別物です。
熊用は広がる霧で距離・面を確保する設計、対人用はジェットなど狭い噴霧で近距離を想定する製品が多いです。
また、熊用は刺激物が落ちにくくするために油性の溶媒を用いていることが多いですが、対人用は付着後の洗浄性を考えて溶媒が水溶性の製品が多いです。
以上のことから、人間用を熊対策として代用は非推奨です。
ラベルに「Bear(熊)用」と明記され、総カプサイシノイド(CRC)濃度や射程・噴射時間・内容量が明確なものを選んでください。
3. 海外基準と日本の現状を比較(要点早見表)
項目 | 北米(公式/推奨) | 日本の現状 | 購入時の目安 |
---|---|---|---|
用途表示 | 「Bear Spray / Bear Deterrent」明記+ EPA登録番号(米国)/ 動物用表示(カナダ) | 公的認証なし。表示・用途が曖昧な製品が混在 | 用途と登録番号(EPA)や公的表示が明確なものを選ぶ |
射程 | 最低約7.6m(25ft)以上。市販主力9〜12m | 製品差が大。小型缶は5m前後に留まる例も | 8m以上を目安(推奨:10m級) |
噴射時間 | 6秒以上(連続噴射対応) | 数秒で尽きる製品も存在 | 6秒以上(理想:7〜10秒) |
内容量 | 225g(7.9oz)以上 | 小容量製品が散見(50〜100g台) | 約225g以上(例:230g/234mL級) |
有効成分 | 総カプサイシノイド(CRC)1〜2%(多くは2%) | 表記が「カプサイシンのみ」の場合も | CRCで1〜2%を確認(迷ったら2%) |
噴霧 | 霧(フォグ)状で面を作る | ジェット状の対人用も混在 | 「フォグ状」記載や実射データを確認 |
4. 日本で購入する際のチェックリスト
- EPA登録番号 or EPA基準に準拠している記載:米国EPA登録やカナダの動物用表示があるか。
- 射程:8m以上(理想は10m級)。「9〜12m」と明記なら安心。
- 噴射時間:6秒以上。短すぎる製品はNG。
- 内容量:約225g以上(230g台/234mLなど)。手のひらサイズは避ける。
- 濃度表記:CRC(capsaicin & related capsaicinoids)で1〜2%かを確認。※「カプサイシンのみ〇%」表記は比較が難しいので要注意。
- 噴霧形状:霧(フォグ)状の広がり。対人用のジェット型は不可。
- 有効期限:概ね3〜4年。期限切れや一度使用した缶は更新する。
- 携行方法:ザック内部はNG。必ずベルト/チェストの即応位置にホルスター固定。

5. 使うときの要点(超要約)
- 距離感:接近してきて約5〜8mになったら噴射準備。風向に注意。風上に立つ。
- 狙い:地面や前方に霧のバリアを作り、熊の顔面(目・鼻先)に入る雲を形成。
- 噴射の仕方:1〜2秒の噴射を複数回。ひるんだら静かに後退・離脱。
- 予防が最優先:鈴や声出し、複数行動、痕跡の発見、最新の出没情報の確認は常にセット。

6. 航空機での移動不可(持ち込み・預けともに)(遠征はレンタル活用)
ベアスプレーは機内持ち込み・受託手荷物ともに不可です。飛行機での遠征時は、現地で新品を購入するか、アウトドアショップのレンタルサービスを活用しましょう(返却も現地で完結できると便利)。
保管は高温を避け、有効期限・缶の傷・噴射口の汚れを定期確認してください。
7. まとめ
- 日本は公的規格が未整備。だからこそ海外基準(EPA等)を目安に選ぶ。
- 最低限:射程8m以上/噴射6秒以上/内容量225g以上/CRC1〜2%。
- 「熊用」表示と登録番号が明確な製品(実績ブランド or 同等スペック)を選ぶ。
- 飛行機では運べないので、遠征は現地レンタルも選択肢に。
- 使い方と携行位置は事前に練習。いざという時に数秒で構えて噴射できる状態を常に。

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